神戸地方裁判所 昭和55年(行ウ)23号
原告
日本赤十字社
右代表者社長
林敬三
右訴訟代理人弁護士
妙立馮
同
石田好孝
被告
兵庫県地方労働委員会
右代表者会長
奥野久之
補助参加人
日本赤十字労働組合姫路支部
右代表者執行委員長
国土博生
右訴訟代理人弁護士
分銅一臣
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用及び参加によって生じた費用は原告の負担とする。
事実
第一当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨
1 被告が兵庫県地方労働委員会昭和五五年(不)第一五号不当労働行為救済申立事件について同年一二月一九日付けをもってした命令(以下「本件命令」という。)を取消す。
2 訴訟費用は被告の負担とする。
二 請求の趣旨に対する答弁
1 主文第一項と同旨
2 訴訟費用は原告の負担とする。
第二当事者の主張
一 請求原因
1 本件命令
被告は、補助参加人を申立人、原告及び姫路赤十字病院(以下単に「病院」という。)を被申立人とする前記不当労働行為救済申立事件について、別紙記載のとおり本件命令を発し、同命令は昭和五五年一二月二五日原告に交付された。
2 本件命令の違法性
本件命令は、以下に述べるとおり、事実誤認及び法律の解釈、適用の誤りに基づく違法なものであり、取消されるべきである。
(一) 原告は、本件命令の理由第一の二(二)、(四)、(五)において、岡本係長が、塚本及び上村に対し、同五四年七月二十六、七日ころ、「組合を脱退するのは今から二か月の間や。もし組合に残っているようだと、君の将来は非常にみじめなことになるぞ。」と発言し、また同年一〇月二四日、「組合を脱退するのは今だよ。」などと発言した旨認定し、土居課長が同日塚本及び上村に対し、「今は人間をふるいにかける時代だ。」と発言した旨認定しているが、これらの事実は存在しない。
(二) 被告は、同第一の三(四)において、病院では診療報酬請求のための神戸出張は、医事課員のうちの希望者が輪番制で行くことが慣行化していた旨認定しているが、そのような事実はない。
また被告は、同第二の一(二)において、塚本及び上村を、研修、見学その他の出張につき差別して扱った旨判断しているが、研修や見学は、いずれも職員の資質能力や事務の繁閑などを考量し、職制の裁量により決定されるものであり、全職員を完全に平等に扱いうるものではなく、また右両名以外にも出張させられなかった者があり、右判断は不当である。
(三) 被告は、同第一の三(五)イにおいて、原告と補助参加人間の兵庫県地方労働委員会同五一年(不)第二三号不当労働行為救済申立事件として現在審理中の事実をもって、土居課長及び岡本係長の言動を原告の意図するところに適合する旨判断しているが、右事実は何ら証拠に現われていないものであり、また本件とは関係のない事実であるから、右判断は不当である。
(四) その他原告が職制を通じて補助参加人の組織運営に支配介入した事実はなく、また原告には塚本及び上村を補助参加人から脱退させる利益もなかったものである。
二 請求原因に対する認否及び被告の主張
1 請求原因1は認め、2は争う。
2 本件命令の理由は、別紙記載のとおりであり、被告の事実認定及び判断に誤りはない。
第三証拠
本件記録中の書証目録及び証人等目録記載のとおりである。
理由
一 請求原因1の事実は、当事者間に争いがない。
本件命令は、原告及び病院を名宛人とするものであるが、病院は、法人格を有しないことが明らかである。そこで、本件命令の主文第一、二項は、法律上は原告に対する命令であって、原告の経営する医療施設の一つであり、補助参加人組合員らの現実の勤務先である病院に対し、原告がとるべき措置を具体的に命じたものと解するのが相当であるから、その不服に関する訴訟については、原告が当事者適格を有するものというべきである。
二 そこでまず、本件命令の前提となる事実関係について検討する。
1 本件命令の理由第一の一(当事者)及び同三(五)ア(病院における課長の職責)記載の各事実は、原告の明らかに争わないところである。
2 (証拠略)を総合すれば、本件命令の理由第一の二(一)ないし(六)及び三(一)ないし(四)記載の各事実を認めることができ、(証拠判断略)、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
三 次に、右事実に基づき、原告の不当労働行為該当性を判断する。
本件命令の理由第一の二(二)ないし(六)記載の各事実における土居及び岡本の各行為は、同三(一)ないし(四)記載の各事実を参酌すると、全体として、病院の医事課長又は同課入院係長が、その地位に基づき、補助参加人の組合員である塚本及び上村に対し、組合からの脱退を勧奨したものであることが明らかである。
ところで、労働組合法七条三号所定の支配介入行為には、使用者その他使用者の利益を代表する者(同法二条一号)の反組合的行為がこれに該当することはもちろんであるが、職制機構末端の監督的地位にある被用者の反組合的行為も、職制機構の一員としての地位における又はその地位を利用しての行為である限り、使用者の支配圏内におけるものとして、これに含まれるものというべく、使用者はその行為を抑止すべき責任を負うべきものと解するのが相当である。
本件において、病院の課長の職責は前記二1記載のとおりであり、入院係長の職責は、(人証略)により、入院係の職員の指導監督をするものであることが認められる。
よって、原告は、土居及び岡本の前記各行為についてその責任を負うべきものであるところ、右行為は、同法七条三号所定の支配介入に該当するというべきであるから、原告は、不当労働行為の責を負わなければならない。
四 したがって、被告が、土居及び岡本の組合脱退勧奨などの行為をもって、原告の職制を通じての補助参加人の組織運営に対する支配介入であると判断し、その救済方法として、原告の経営する病院に対し、これを禁止すること及び今後このような事態を起こさない旨の誓約文を病院内に掲示することを命じた本件命令は、相当であるから、これを取消すべき事由はないものというべきである。
五 よって、原告の本件請求は、理由がないから棄却することとし民訴法八九条、九四条を適用して、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 中川敏男 裁判官 上原健嗣 裁判官服部廣志は退官につき署名押印することができない。裁判長裁判官 中川敏男)
別紙 命令書
申立人 日本赤十字労働組合姫路支部
代表者執行委員長 国土博生
被申立人 日本赤十字社
代表者社長 林敬三
被申立人 姫路赤十字病院
代表者院長 岡田康男
上記当事者間の昭和五五年(不)第一五号姫路赤十字病院不当労働行為救済申立事件について、当委員会は、公益委員会議における合議の結果、次のとおり命令する。
主文
一 被申立人姫路赤十字病院は、職制を通じて申立人組合の組合員に対し、組合脱退を勧奨などすることにより、申立人組合の組織運営に支配介入してはならない。
二 同被申立人は、本命令交付後一週間以内に下記誓約文を、縦一メートル、横二メートルの板面に明瞭に墨書し、病院内の一般従業員の見やすい場所に掲示し、一〇日間存置しなければならない。
記
誓約文
昭和 年 月 日
姫路赤十字病院
院長 岡田康男
日本赤十字労働組合姫路支部
執行委員長 国土博生殿
当病院の土居医事課長および同課岡本入院係長が、貴組合の組合員塚本、上村両名に対し、組合脱退を勧奨したことにつき、兵庫県地方労働委員会において、当病院の貴組合に対する支配介入行為に該当するものと判定されました。よって、今後このようなことが起らないよう留意することを誓約します。
以上
三 被申立人日本赤十字社に対する申立ては、これを棄却する。
理由
第一 認定した事実
一 当事者
(一) 被申立人日本赤十字社(以下「日赤」という)は、日本赤十字社法によって設立された法人であって、全国に病院九三、同分院三、その他の医療施設を有している。
(二) 被申立人姫路赤十字病院(以下「病院」という)は、上記日赤の医療施設の一つで、内科、外科、小児科等一〇の科を有する総合病院であり、ベッド数は五〇三床である。
(三) 申立人日本赤十字労働組合姫路支部(以下「組合」という)は、日赤の従業員で組織されている日本赤十字労働組合の支部であって、上記病院ほか一施設に勤務する者をもって構成する労働組合である。
(四) なお、病院は、日赤の支部長である知事が社長の承認を受けて開設したものではあるが、院長を含む、副部長、技師長、以上の幹部職員以外の職員は、院長が任免し、院長は病院の管理に関する一切の業務を統理し、かつ、すべての職員を指揮監督して医療業務を行うものとされ、また、病院は独立採算制により運営することが原則であり、なお、本来支部の管理に服すべき事項についても、病院としての機能を遺憾なく発揮することができるようにするため、できる限り院長に専決させるよう措置することと定められ、かつ、現実にそのように運営されている。これらの事実は、当委員会に顕著である。
二 土居医事課長らの組合脱退勧奨
(一) 病院の医事課は、診療行為の明細書を作成して、診療報酬請求をする事務を担当する課で、入院患者の分を扱う入院係と、外来患者の分を扱う外来係とに分れている。昭和五四年以降、土居課長の下に岡本入院係長と松本外来係長がおり、岡本係長の下には、同年七月から一〇月にかけて、入院係の事務職員が七名いた。そのうち、塚本、上村、大東の三名は男子で、小野、梅津、堀越、ほか一名、計四名は女子であった。松本係長は組合の書記長、塚本、上村、小野、梅津、堀越は組合の組合員であったが、岡本係長と大東とは、以前に組合を脱退した者である。
(二) 昭和五四年七月二六・七日ごろ、岡本係長は、ふと思いついて、塚本、上村の各自宅に相次いで電話をかけ、後記医事業務運営協議会に関する事務について協力してくれるよう、また、医事業務の改善、合理化が進められる折柄、仕事ぶりを積極的にしてもらいたい、と要請した際、「組合を脱退するんは今から二か月の間や。もし組合に残っているようだと君の将来は非常にみじめなことになるぞ。」と言った。これに対する両名の返事は、いずれも「考えておきます。」ということであった。
(三) 上記小野が同年一一月三〇日に退職するため、同年一〇月二九日から休暇をとることとなった上に、梅津が小児科へ配転されることが同月二三日に決定したところから、同日土居課長と岡本係長とが相談し、翌日塚本、上村両名と今後の問題について話をすることとした。
(四) そこで土居課長は、一〇月二四日午後一時ごろ、仕事中の塚本、上村両名を事務当直室に呼び出し、上記梅津の配転を告げるとともに、その結果入院係が二名減るので、がんばってくれるよう激励する一方、「今は人間をふるいにかける時代だ。君達はすれすれのところにいる。」という話をした。両名は、半分脅かしの感じで受け取り、こわくて黙っていた。
(五) 岡本係長も同時に呼ばれていたが、上記堀越に対し、梅津の配転を告げ、「もうそろそろ組合を出た方がいいのではないか。」などと話していたため、一〇分余り遅れて事務当直室の話し合いに加わった。同係長は塚本、上村両名に対し、「以前電話で話したことがあるけれど、組合を脱退するのは今だよ。自分のことだけを考えてやりなさい。」と話した。
(六) 土居課長は間もなく退席したが、岡本係長はなお約一時間にわたり、課長の話を敷衍して、コンピューターの導入や医事業務の中央制により、いずれ医事課は三名ぐらいですむようになり、余った者は配転になると説明し、組合脱退のことを二人で相談しておいてほしいと言った。両名は、返事は年内待ってほしいと答えたが、結局組合を脱退しなかった。
三 その他
(一) 医事業務運営協議会
ア 病院では、昭和五四年四月一日医事課中央化の推進を目的として、診療部長鍋山晃を委員長、そのほか事務部長ら部長三名、婦長三名、医事課長ら課長四名を委員とする医事課運営協議会を発足させた。上記岡本係長は、書記としてこの協議会に加わり、議案の準備、決定事項の成文化など、幹事役を勤めている。
イ 同協議会はその後間もなく、医事業務運営協議会として上記のほか、医事業務の改善、患者サービスの向上についても協議することになった。
ウ この協議会の建議に基づき、入退院手続の改善は昭和五四年七月一日から、一患者一番号制と初診料の後払い制は同年一二月一日から、それぞれ実施された。同年七・八月ごろ協議の対象となっていたのは、病院案内、手術承諾書などであった。コンピューターの導入や、中央制(カルテの集中管理)は、なお将来の検討課題となっている。
エ この協議会に関する事務は、医事課の業務と密接な関連を有するが、同課の職員に課せられた本来の業務ではない。そして岡本係長は、協議会の発足直後、上記大東には内容を説明して協力を求め、以後事務の手伝いをさせているが、塚本や上村には内容なども教えないし、また、外来係に関連する問題についても、松本係長の意見をきいたり、同係長と相談したことはない。
(二) 医事課の課員として見学に行く場合、岡本係長や大東は度々行くが、松本係長は昭和五四年四月が最後で、その後は行かせてもらえず、塚本や上村も、一年以上前から見学に行かせてもらっていない。
(三) 昭和五五年七月、日赤で診療報酬請求事務研修会を一〇月に開催することになり、医事業務担当中堅職員の参加者の職氏名を、七月三一日までに申出るよう各病院に通知した。日赤としては、原則として昭和五四年の研修会に出席できなかった職員を優先させるよう指示していたが、病院では、昨年に参加した大東を、敢えて再び岡本係長とともに参加させた。
(四) 病院では、毎月初め診療報酬請求のための神戸出張は、医事課長の指名による建前ではあったが、実際には課員のうち出張を希望する者が輪番で行くことが慣行化していた。ところが本件申立て後の昭和五五年八月初めに至り、土居課長は順番の塚本を出張させようとしていたが、病院の幹部から差止められた。そして八月二日同課長は、塚本、上村両名に対し、当分神戸出張は行かせないと申し渡し、同人らが理由を質すと、「理由は君達の胸に手を当てて考えてみろ。」と答えただけであった。
(五) なお、次の事実はいずれも当委員会に顕著である。
ア 病院における課長は、上司の命を受けて、所属職員を指揮監督し、所属の業務を処理する職責を有する。(日本赤十字社医療施設規則第一四条第一三項)
イ 組合は、病院を被申立人として、当委員会昭和五一年(不)第二三号不当労働行為救済の申立てをなし、昭和五一年九月一六日から同月二五日にかけて、上原小児科医師、金井婦長、小牧耳鼻咽喉科部長、梅沢小児科部長、山田内科部長、斎藤泌尿器科部長らが、病院内で勤務中の、組合員看護婦らに対し、組合を非難中傷し、組合脱退を示唆、勧誘もしくは強要したと主張し、職制等を通じてなす、これら支配介入行為の禁止と謝罪文の掲示を求めている。この事件は、なお当委員会に係属中である。
第二 当委員会の判断
一 病院の不当労働行為
(一) 前記第一の二(四)(五)の事実についてみるに、土居課長の言葉そのものは、直接組合脱退のことに触れてはいないけれども、同席した岡本係長が露骨に、塚本らに組合脱退を勧奨するのを黙視していたこと、同(三)で認定したように、もともと当日の話合いは両者相談の上であったことから考えると、課長の言葉の真意は、組合脱退の勧奨にあったのであり、同(六)で認定した、課長退席後の岡本係長の話はもとより、同(二)で認定した同係長の電話も、そのような土居課長の意を体して行われたものと思われる。これら一連の組合脱退勧奨が、組合の運営に対する支配介入行為であることは、いうまでもない。
(二) そして、課長の身分や、前記第一の三(五)アで認定した職責からして、土居課長の上記行為は、病院の一つの機関としての行為とみることができる。
その上、同(一)にみられるように、病院は、医事業務運営協議会について、同じく医事課の係長であるのに、組合を脱退した岡本係長には書記として参画させながら、組合の書記長である松本係長には全く関与させなかった。また病院は、同(二)ないし(四)で認定したように、研修、見学その他の出張について、同じく医事課入院係の職員であるのに、組合を脱退した大東と、脱退を肯んじない塚本、上村とを、差別して扱っている。更に病院は、組合から同(五)イ記載の、不当労働行為救済の申立てを受け、現に審査手続中であるが、職制の組合脱退に関する働きかけ、その他組合の運営に対する支配介入とみられるような言動について、これを抑止するための措置をした形跡がない。これらの点からみて、土居課長の上記行為は、また、病院の意図するところに適合していたものと考えざるを得ない。しかも前記岡本係長の行為は、上記のとおり、土居課長の行為と一体をなすものとみられるので、両者一連の上記行為は、職制を通じてなした、病院の支配介入行為であり、労働組合法第七条第三号に該当するものと判断する。
(三) よって病院に対する組合の申立ては、これを認容し、主文第一項および第二項のとおり救済する。
二 これに反し日赤に対する関係では、前記土居課長らの行為が日赤の機関としての行為とみるべき根拠もなく、また、前記第一の一(四)で認定したように、病院はかなり独自性をもって運営されており、上記行為が日赤の意を体して行われたものと認めるに足る疎明もないので、これを日赤の行為とみることはできず、従って日赤に対する組合の申立ては、棄却を免れないものと判断する。
第三 法律上の根拠
よって、当委員会は、労働組合法第二七条および労働委員会規則第四三条を適用して主文のとおり命令する。
昭和五五年一二月一九日
兵庫県地方労働委員会
会長 奥野久之